01 Tea party
目が覚めたら世界が一変してた。
寝ているベットも、自分の視線の先にある壁紙も。
少し目を違う方向へと向ければ、知らない大きな出窓。
そこにかかるカーテンも。
レースのカーテンの先に見える空も、知らないものに見えた。
そっと布団から手を出すと、物凄い違和感を感じた。
小さな小さな自分の手。
短い腕は、顔の前に手をかざせばいっぱいいっぱい。
そしてベットが妙に巨大なのだ。
寝ぼけているのか頭はぼんやりとしていて、違和感だけが
心にくすぶって残る。
そう……昨晩は、ハリーポッターの最終巻を読み終え、
涙も出ない抜け落ちたような感情でパソコンをつけた。
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インターネットから、お気に入りのサイトに飛ぶと、セブルス・
スネイプの夢小説を読もうと、いつもの様に繋がるのを待った。
知っていたのだ……。
でも、事前に知っていたけれど、信じられないでいた。
むしろは認めたくなかったのだ。
セブルスの話の章の後はざっと読み流した。
頭になんか入らなかったし、事務的に読み進めた。
そっと本を閉じ、変えられない事実を突きつける本を睨んだ。
読む前に知った時には、泣いた。
でも、今は涙が出ない。きっと泣いた方がスッキリするのに。
でもじわじわと哀しみは心を蝕むみたいに広がって、痛んだ。
少し目が潤む。
でも泣けない。
五巻は泣きながら読んだ。
でも……最終巻は。
続きを真剣に読むのが嫌になるぐらい、ポッカリ空いた穴はでか
かった。
イスに腰掛け、ベットに投げ打った本を見る。
大好きな本。
とんだ意識をパソコンに引き戻す。
大好きな物語に入り込めば、二次元創作で明るい話を読めば
良い。
セブルスが幸せになる話を読もう……。
はパソコンの画面をしっかりと見た。
「えっ……?」
可笑しい、いくらぼうっとしていたとは言え、知らないサイト
に飛んでるなんて。
自分の失態に疑問を持ちながら、なんとなくサイトに目を通す。
少なくともお気に入りから飛んだのだから、知っているサイト
のはずだ。
冒頭には異世界への永住を叶えますの文字。
そこから下には。
『あなたを望む世界へと』
〜あなたはそこで第二の人生を得るでしょう〜
宗教の勧誘のような言葉に顔をしかめつつも、次の言葉にこそ
の心を引きとめる力があった。
あなたは助けたい人はいませんか?
あなたはその人が居る世界に行きたいと思いませんか?
たとえ二次元の壁を越えても、それを可能にします。
……でもあなたはその世界で生涯を生き抜く覚悟はありますか?
望む世界に行った後はこちらの世界には戻れません。
幸せをつかめるかはあなたしだいです。
あなたはあなたが望む世界へと行きますか?
そう書いてあり、少し下にはエンターボタンと戻るのボタン。
新手のインデックスだろうか。
は何気なくエンターボタンをクリックした。
すると、の意識はゆるゆるとが薄れ始める。
そんなに眠くなかったはずなのに。
パソコンのスピーカーからは、中性的な声が聞こえた。
『あなたの望む世界は?
あたなの望む場所は?
あなたは何をその場所で成し遂げたいのですか?』
ぼんやりとした意識の中、不思議なBGMを作るサイトもある
ものだと変な関心をしながら、は心の中でついつい答える。
異世界トリップ夢小説好きの性だろうか。
意識は今にも途切れそうで自分の体の感覚も無いのに。
心は反応するなんて。
『こんなので本当に叶うなら……私はセブルスを幸せにするために
本当に二次元の壁なんか壊してやろう』
答えてから、本当ならどれだけ良いか……。軽く唇を噛み締めた。
頭には数刻前に読んだシーンが浮かんでは消えていく。
『さん……あなたの望む世界へ。
望む幸せな生涯を手に入れられますよう。
準備は整えられました、あなたの幸運を祈ります』
変なサイトだ。返事までするBGM。
しかも名前がバレている。
嫌、もう自分は寝ているのだろう。はぼんやりとした
頭の中で、返事が返ってきた事に夢という名をつけた。
だって名前なんてわかるわけ無いんだから。
妙に笑えて口元には笑みが浮かぶ。
でもこれが本当なら、夢見てきたことが現実になったという
事で、最終巻を読めたことは最高の贈り物だ。
周りの反応も無視してセブルス信じていた気持ちは確固として
裏づけされ、にとって本の知識は最強の武器となる。
セブルスを幸せにするために、は【動ける】事になるのだ。
壁を越えて、会えるのだ。
夢でもこんな幸せな夢を見れるなんて、明日の朝は現実に悲しく
なりそうだが、今は一時の幸せに浸りたい。
最終巻の悪夢を忘れて。
はそれを最後に意識が途切れたのだった。
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