02 Tea party
昨夜の事を思い出し、寝ぼけていた頭が少しクリアになると、
この緊急事態に頭がパニックになる。
「えっなんで!?」
そう声にしたはずの音は、大きな泣き声へと変化し、部屋中に
響き渡った。
すると、パタパタと歩く音と、ドアが開く音が聞こえ、は
女性の腕の中に納まっていた。
「、起きたのね」
ゆっくりと背中を叩かれ、目を瞬かせると、小さな歓声が上がる。
何事かと思えば、何時のまにか知らぬ男性がの背後、女性の
前に立っていたようだ。
「なんて可愛いんだろう!! 今俺を見た!」
「ねえ驚いてるわよ、起きたばかりなんだから」
そんな女性の言葉に、その通りだと男性は頷いて見せるも、女性
の手からを抱き上げ、高く持ち上げた。
正直高くて怖い。
そうが思うと、代弁するように女性が叱り飛ばす。
「危ないわよレイス!!」
「ごめんよユウ、それにも、今日で君が生まれて十日目だ!
これはお祝いしなきゃいけないと思うだろ?ついついはしゃいで
しまったんだ」
きちんと腕に抱きかかえ、幸せそうにレイスは目を細めた。
は安定を手に入れほっとしたのもつかの間、今度は精神の
安定がぐらついた。
生まれて十日、そして声が音になる不思議。
もしや……。
は自分の手を持ち上げ、眼前に来ると、叫んだ。
「ありえない!!」
ぷっくりとした小さな手、見間違いじゃない。
これは赤ん坊の手だ。さっきから簡単に抱き上げられ、その上
すっぽりと人の手に収まっているのは……体が小さいから。
の発した声は又も音にしかならず、泣き声のような声は
レイスとユウを慌てさせた。
「もうっ、あなたが驚かせたからだわ」
今度はユウの手へと移動したは、背中を叩かれ、だんだんと
心が落ち着いてきた。
暖かい腕の中は、今のには安定剤みたいに心を落ち着かせる
力があった。
レイスは慌てた様子で、の手をとって情けない顔をした。
「が俺の事を嫌いになったらどうすれば良いんだ!」
「そう思うなら危ないことしちゃだめよ」
は何度か2人を見比べ、1つの結論が頭に浮かび上がった。
もしかしたらこの2人は父親と母親なのだろうか?
一度浮かんだ考えは、この状況にぴったりと当てはまり、
を困惑させた。
昨晩の出来事を思い出す。
その記憶が確かな最後の記憶だったからだ。
もしかして、本当の本当にあのサイトは異世界へと誘うものだった
のか、ここはまだ夢の中ではないかという疑問も頭をもたげるが、
妙に感覚がハッキリしているし、は目が覚めていると感じる。
もし仮にここが夢ではないとしたら……。
ここはあの世界なのだろうか?
「、眠いのかい?」
レイスがの顔を覗き込んで居る。
見たことの無い外国の人の顔。
は自分を抱き上げているユウの顔も見上げてみた。
日本人の女性で、その顔は優しげに微笑んでいる。
もっと考えたい事は沢山あるはずなのに、はくっつこうとする
瞼にだんだん抗えなくなってきた。
眠い。
ゆっくりと背中を叩かれていると体がぽかぽかして、安心感の中で、
はいつの間にか眠ってしまっていた。
再びが目覚めると、まだ生まれて十日目だったらしく、レイス
が大きなぬいぐるみを、ユウからはパッチワークのタオルケットが
プレゼントされ。
夢の中で目が覚めるなんてあるだろうかという、大きな疑問が自分
からプレゼントされた。
そしてその日の晩、夢を見た。
あのサイトに流れていたBGMの声。
否、BGMでは無かったのだろう。その声の主が夢で語ったのだ。
夢ではないと、はこの世界に生まれ変わったのだということを。
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あの衝撃の日から二年十一ヶ月と二十日の誕生日がやって来た。
今日では3才になる。
この年月でわかった事は、ここは魔法使いが居るという事。
父親が魔法使いだということ。
これであの日に父親が急に現れたわけがわかった。
姿現しをしたのだ。
そしてなによりも大事なことはこの世界にホグワーツが存在していて、
母親は日本人、父親はイギリス人。
そしてここはイギリスで、はイギリス人だった。
思いは確信に変わる。この近所にはスピナーズ・エンドという場所が
存在し、その近くには川があった。
ここはハリーポッターの世界。
夢ではなく現実で、ここにはきっとセブルスが居る。
そして今の一番の願いは、セブルスと出会うこと。
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