リドルはいったいどうしたのだろうか。
窓の外からはあたたかい朝の光が降りそそぎ、リドルをキラキラ
照らしている。

は目を見開き、自分の耳を疑った。





Across space-time and 10.2









急いで朝食を作り、リドルに先に食べるように言うと、デザート
の準備をしにキッチンへと戻った。

冷蔵庫の中のプリンに生クリームをかけ、再び冷蔵庫に入れ、
ジュースを手に持ちリドルの待つダイニングへと駆け戻る。

「おまたせ」

席に着き、ジュースをリドルのコップに注ごうと身を乗り出す。
しかし、は急に動きを停止させた。
視線の先には……リドルのコップ。
リドルのコップには、少しかさの減った飲み物。


否! 魔法薬が入っている。


「あー……リドル?」


おそるおそる視線を上げれば、太陽の光でキラキラ輝くリドル。



「今日は無いの?」


「えっ?」

思わず気の抜けた返事を返す。
不覚にも、少しボーっとしてしまったのだ。
その様子に、リドルが不機嫌そうに顔を顰めた。


「別に、いらないけど、ずっとしてたでしょ?」


「えっ?」


ますます話が掴めず、は首を捻るしかない。
その間もリドルの機嫌は急降下していく。
危ない兆候だ。


テーブルの脇では心配そうに、リオがこっちを見つめている。
耳はパタパタと動き、今にも耳で飛べてしまいそうだ。



「リドル、もう少しこう具体的に……」

今やこの部屋の空気は、外の暖かさより数段低くなってきている。
なんとか機嫌を損ねず聞きたくて、やんわり問いかける。
それがいけなかったのか、リドルは目線を下げ、低い声で呟いた。


「おはようのキスは?」



は、思考が固まってしまうのが自分でもわかった。






なんなのだ、今の殺人的可愛い発言は!
鼻血が出そうな勢いで、ぱあっと頭の中にリドルの声がこだました。

可愛い。

可愛すぎだっ!

「キ……ス?」

やっと出た言葉がなんとも間抜けだ。

「別にうっとうしいけど、無いとイライラする」


「リドル……」

リドルは顔をしかめ、大きく息をついた。
なんて事だ、自分のバカさには自身を引っ叩きたくなった。

「リドルっ!」

は素早く立ち上がるとリドルの元に駆け寄りギュッと
抱きしめた。

「おはようリドル」

ホッペにキスは落とし、は眉を下げた。

「ごめんね、ご飯も大事だけど……起きたらまずは挨拶だね」

急いでご飯をと思うあまり、おはようとしか言わなかった。
それがいつもと違う事で、リドルを不安にさせてしまったのだろうか。
大人びていても、こういう事には敏感なのだ。

「……別に、はボケボケしてるから、どうせそうだと思ったよ」


「ん、ごめん」

もう一度ギュッと抱きしめると、そっと体を離す。

「別に……それよりご飯さめるよ」


「そうだね、ごはん食べよっか」

にっこり笑って立ったまでは良かったのだ。

は視界を掠めたものに、ギクっと固まった。

忘れていたが、リドルのコップに有るのは今朝作った魔法薬
ではなかろうか。
ついっと視線をテーブルに走らせれば、2個の内の一個のコップ
の量が少し減っている。

「……」


やっぱりだ。

リドルの今の態度、魔法薬の影響だったのだ。
偶然にも嬉しい言葉を聴けたわけだが、これ以上飲ませるわけには
いかない。

急いでリドルのコップを手に持ち、持ってきたジュースを新たに
コップに注ぎなおす。

「どうかしたの?」

リドルは訝しげにを見あげ、ジュースと魔法薬へ交互に
視線を送ってくる。


「ごめんね、こっちはジュースじゃなくて健康と美容の薬だから」

「……へぇ」

さして興味もなさそうなリドルにほっとして、テーブルの上の
魔法薬を自分の方へと引き寄せた。

これで安心だ。

一つは美容と健康の薬、減ってるほうが本音がポロリとなる薬、
そうそうに美容の薬は飲み干してしまう。


何だか大変なめにあった薬だが、良い事もあったしよしとしよう。
が満足げに、ジュースの入ったコップを持ち上げると、
隣からリオの叫び声の様な物が上がった。


「間違いでごじゃります!そっちは本音薬です!」


「へっ?」

そっと視線を手元にやれば、ジュースではなく、その隣の薬に
手を掛けている。


「……本音薬って?」


リドルが爽やかに笑みを浮かべている。



「アハハハ」


どうやらこの薬は鬼門みたいだ。
は乾いた笑みを浮かべると、素直に事の経緯を口にした。


その後リドルに、呆れを含んだ盛大なため息を吐かれる事になったのは、
自業自得というものだ。







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