金盞花とクローバー 03
車窓からの景色を楽しんでいる、ホームから発車していない景色は、それほど
変わり栄えしないが、とても楽しかった。
初級呪文集は、今は膝の上で閉じられ、はうきうき気分で窓の外を見ていた。
今は呪文集より景色を楽しもうと思えたのだ。
と、そんな事を考えていたら、ゆっくりと列車が動き出した。
段々とホームから汽車が離れていく。
そんな時だった。
「あの……ここ大丈夫?」
赤毛の髪の女の子がコンパートメントのドアの影からこっちを覗いている。
うっすらと額に汗が浮かんでいて、駆け込み乗車でもしたのか、息も心なしか
上がっているみたいだ。
「ええ、もちろん。ここ私1人で寂しかったの」
笑顔で答えると、は荷物を端に寄せ、手招きした。
するとすぐに、女の子はコンパートメントの中へと入ってきて、ほっとした表情に
なる。
ちょこりとの前の席へと座り、大きく息を吹き出した。
「お兄ちゃんは友達と座っちゃって、私だけどうしようかって思ってたの。
もちろんお兄ちゃん達は一緒にって言ったけど、きっと大変な事になると思って
断っちゃった」
にはどんな大変な事になるのか分からなかったが、女の子の勢いに圧されぎみ
にコクリと頷いておく。
どうにも口を挟みにくい雰囲気だったのだ。
「あっ、ごめんなさい、まだ名乗ってもいなかった!」
表情をコロコロ変え、目の前の子は慌てたように手を差し出してきた。
「私はジニー・ウィーズリー、ジニーって呼んでくれると嬉しいな、それとここ、
入れてくれてありがとう!」
「私は・、私の事もって呼んで、ジニー」
はジニーの手を取ると笑みを浮かべた。
+++++
2人はあっという間に仲良くなった。
何と言っても、同学年なのだ。
意気投合した2人は、寮について話したり、の勉強のしすぎに、ジニーがうえっと
吐く真似で笑いを取ったりした。
どうやら、ジニーの兄の1人にも、勉強好きの優等生が居るのだとか。
ジニーの一つ上の兄の友達も勉強熱心らしい、所謂本の虫。
きっとその人とも気が合うと思うとジニーがもらして、ジニーも一緒に勉強するでしょ?
とが言ったら、まさか!と大げさに驚かれてしまった。
そんなくだらない話で盛り上がっていると、車内販売が回ってきた。
恰幅の良いおばさんがにこやかに商品を進めてくる。
「えっと……私はカボチャパイとジュース、カエルチョコを五個下さい」
が頼み終えると、ジニーは途端にモジモジし始める。
如何したのだろうか?
「ジニー?」
が車内販売のおばさんからおつりを受け取って居ると、ジニーはおばさんの視線から
逃れるように自分のバックに手を突っ込んだ。
「おじょうちゃんは良いの?」
「いっいいの、私ママがお弁当用意してくれて」
その返事を聞くと、おばさんはにっこり笑みで、頷いて、また次のコンパートメントへと
行ってしまう。
「ジニー、どうかした?」
「ううん、あまりおこずかいが無いから、それにママのお弁当があるの」
「あっ!そうだ、お弁当少しずつ食べっこしない?」
はちょっとどんよりした雰囲気を追い払うように大げさに肩を竦めた。
「ほら、お菓子も欲張って買いすぎちゃったし、ねっ?」
「でも……」
ジニーがまたもじもじしだす。
「ジニーが嫌じゃなかったら、その方が楽しいかなって」
「うん……がいいなら」